【7人の留年】      2006年 やなせ(C) http://amusing.blog18.fc2.com/ ●登場人物(生徒)  ■星本 創(ほしもと そう)♂ 溌剌気楽。特にテストの点数にこだわらないクールさを持つ。 大切なものは他にあると信じている。  ■谷 純(たに じゅん)♂ 熱血漢あふれるバカ。 星本の友達で留年には関係ない。 いっしょに探してくれる。  ■安倉 均(あくら ひとし)♂ 秀才タイプで、留年の理由が分からない。 理屈っぽい性格。 少し自分勝手なところがある。  ■剣持 通(けんもち とおる)♂ 一匹狼で無口。  ■西崎 すぐる(にしざき すぐる)♂ 留年の理由が登校拒否なのか長期入院なのか噂されている。 勉強家であり、宝は探さない。  ■安西 綾羽(やすにし あやは)♀ 悲観的な暗い性格。あきらめがちで根気がない。  ■権藤 沙良(ごんどう さら)♀ 典型的な勉強嫌い。ボーイッシュな不良。 みんなの邪魔をする。 ・号令係の生徒 ・野球部員A ・野球部員B ・野球部員C ・野球部員D ・スポーツA ●登場人物(先生)  ■中田先生♂ 厳しい学年主任。生徒指導のステレオタイプ。  ■田村先生♂ 遊ぶのが大好きな変な人。 イタズラ好きで生徒の気持ちが良く分かる。  ■阿藤用務員♂ やさしい用務員さん。 いろいろ情報をくれる。  ■校長先生♂ 貫禄のある人。生徒の留年が心配でたまらない。 ・司書 ・食堂のおばちゃん ・試験監督A ・試験監督B ・試験監督C (ここから)  ○学校・体育館 ずらりと並んで座っている200人ほどの生徒。 横に数人いる先生。 生徒は壇上を眺めている。壇上には校長先生。 壇下のマイクには中田先生がついている。 校長先生の声がスピーカーから聞こえてくる。 校長先生の声「――1年も早いものでもう3学期の後半。みなさんが進級するときが刻々と近 づいてきます。思えば初々しい1年生のころ。そして中だるみといわれている2年年もも うすぐ終わりです。すでに知っている通り3年生も卒業し、みなさんが最上級生です。そ ろそろ3年生の自覚を持って行動してください。3年生というのは受験も本格化してきて 忙しくなります。そして部活の引退も近づいてくる。非常につらい時期ではありますが、 みなさんにはより一層努力していただきたいですね。そして今までのような勉強ではなく、 密度の濃いディープな勉強をしていただきたい。みなさんは運良く素晴らしき教師陣が揃 っています。この機会を利用してどんどん質問して――」     ×   ×   × マイクを持つ中田先生。 中田の声「はい、静かにー。後ろまだ終わってないよ、座って」 生徒を見回して確認する中田。 中田「(他の先生と目配せしながら)じゃあ他に連絡のある先生はおりますか? えーじゃあ、 これで解散です。お疲れ様でした」 ○体育館の外 体育館の玄関から生徒がごったがえして出てくる。 ○学校・2年5組の教室 生徒が20人ほどごちゃごちゃいる。 教室に入ってくる田村先生。 教室を一瞥し、星本創を見つける田村。 田村「星本」 手招きして、廊下に出る。 軽く頷く星本。 ○廊下 教室から出てくる田村と星本。 田村「でさ、この前の例の件のやつ」 星本「えー。このまえのマジだったんすか?」 田村が小さな紙切れを出す。 田村「(嬉しそうに)この前の会議で残念ながら星本がうちのクラスから選ばれました」 星本「そんな嬉しそうに……」 星本、苦笑い。 田村は手に持っていた紙切れを渡す。 田村「んで、これに書いてあると思うけど、放課後に1階の会議室に来てってことでよろしく 〜」 星本「(ため息をつきながら)わっかりましたーぁ」 ○2年5組の教室 人でごちゃごちゃしている教室。 近づいてくる星本に気が付く谷純。 谷「星本おかえり!」 手を上げる谷。 星本「ただいま帰還しました。純司令官!」 谷「で? 来た? ついに?」 面白そうに聞く谷。 星本「下の会議室に放課後だってさ」 谷「ご愁傷さまです」 ○廊下 廊下を歩いている星本と谷。 谷「(楽しそうに)ねえねえ! 付いていこうか?」 星本「大丈夫だって。ただ危ないから気をつけろって注意されるだけだろ」 谷「会議室ってどんな感じ?」 星本「(興味なさそうに)知らないよ。呼び出されたことないし」 谷「ほほーう。留年初体験ってわけかー!」 星本「まだ決まったわけじゃないて。なんとかなるだろ」 階段を降りる2人。 谷「俺さートイレ行きたいんだよね」 星本「行けば」 谷「だから先に会議室行ってて」 星本「お前関係ないじゃん」 谷「先に行くなよ!」 星本「いいよなー。純は留年の危機がなくて」 ○1階廊下 会議室のプレート。 ○会議室 壁際に立っている先生数人。前の長い机には中田が座っている。 ドアを開けて入ってくる星本。 すでにイスに座っている安倉均と剣持通と安西綾羽と権藤沙良。 黙って空いているイスを探し座る星本。 ふと、横を見るとイス5つ分離れて西崎すぐるが座っている。 西崎をみて首をかしげる星本。 おもむろに喋り始める中田。 中田「なんで呼び出されたか分かるよな」 生徒全員「……」 ○男子トイレ 小便器に向かって立っている谷。 谷「留年は怖いぞー。とっても怖いぞー」 軽く振ってチャックを閉める。 ○廊下 トイレから出てくる谷。 谷「さーて。会議室での楽しい会議は終わったかなー?」     ×   ×   × 会議室のプレート。 中田(オフ)「高校はとてもクールなとこなんだ。義務教育なら誰でも進級できたけど、今は 違う」 谷「やってるやってる」 会議室のドアに耳をあてる谷。 ○会議室 黙って聞いている横にいる先生たち。 座ったまま話している中田。 中田「一教科でも合格点にいかなかったら進級させるわけにはいかないの。そういうところで は高校ってところはすごいクールなんだわ」 黙って聞いている生徒たち。 中田「ここに呼び出されたお前達はその可能性がある。学年残留、お前達の使っている言葉で いうなら『留年』になる」 ○廊下 ドアに耳を当てて黙って聞いている谷。 ○会議室 机の上で手を組む中田。 中田「お前達が今度の【学年末試験】で頑張れば進級できる。ぜひとも結果をだしてくれ」 黙っている6人の生徒の顔。 中田「じゃあ、どれくらい頑張ったらいいのかお前達分からないだろうから、合格ラインの点 数を言っておく」 中田、机の上にある書類を手に取り見る。 中田「まず。権藤。国語と数学と社会と英語がそれぞれ75点以上」 やる気のない権藤の顔。 権藤「無理」 ふてくされて毒づく。 中田「安倉。英語と美術が80点以上」 考えている安倉の顔。 中田「次に、剣持。理科と英語が90点以上。厳しいぞ」 目をつぶっている剣持の顔。 中田「安西は、数学と英語を75点以上」 黙っている安西の顔。 中田「西崎は国語と英語が80点以上」 下を向いている西崎。 中田「星本は、社会と英語を60点以上。いいかげん2桁の点数にいってくれ」 軽く上を向いて頷く星本。 ○廊下 会議室から出て来て谷の前を通り過ぎる中田と先生たち。 がぞろぞろ会議室から出てくる星本、安倉、剣持、西崎、綾羽、沙良。 谷が星本に声を掛ける。 谷「おつかれ〜! がんばってね。60点ノルマ!」 星本の肩を叩く谷。 星本「また聞いてたのかよ。さすが盗聴魔。それから俺たち上の小会議室行かなきゃいけない んだ」 谷「えー。まだ終わんないの!? なら俺もついてくー!」 星本「田村先生が勉強のアドバイスしてくれるってさ」 ○学校 学校全景。 ○小会議室 小さな会議室。机が8個置いてある。 端にはパイプイスが一個。 三々五々イスに座る星本、谷、安倉、剣持、西崎、綾羽、沙良。 小会議室に入ってくる田村。 田村「おーし、じゃあやるぞー」 権藤「せんせー何やんの?」 田村「ん、みんな英語が落第教科に入ってるからみんなで英語やろうと思って」 権藤「英語苦手ー」 田村が喋ってるのをよそに谷が星本に喋りかける。 谷「(小さい声で)なあなあ、留年者って6人しかいないの?」 星本「らしいね」 谷「多いほう?」 星本「さぁ」 田村「あれ? なんか見かけない奴がいる」 谷に気づく田村。 谷「あ、星本の付き添いです」 田村「よし許す。ってことで、(みんなに向かって)今日は何の日だ?」 ビッと綾羽を指差す田村。 綾羽「ぇ……ぁ……」 田村「(無視して)そう! 今日は試験一週間前だ。頑張ればなんとかなる!」 英語の教科書を取り出す田村。 ○廊下 誰もいない廊下。 ○学校(夕) 校舎全景と夕日。 田村(オフ)「そして、ここはどうなる? AからDの中から選びなさいってやつ。もう解け るでしょ?」 ○小会議室 歩きながら問題を見ている田村。 星本、安倉、剣持、西崎、綾羽、沙良が座って田村の講義を聴いている。 田村「じゃあ、答えをノートに書いた人から持ってきて」 パイプイスに座る田村。 田村「そういえば谷はどこ行った? あのうるさいやつ」 安倉「あれ? さっきまで騒いでたのに」 星本「あいつなら帰りましたよ。英語は嫌いだとかいって」 田村「なんだ。根気ねぇなあ。あいつも呼び出しぎりぎりだから勉強しとけばいいのに」 問題を考えずにダラダラしている沙良。 田村「権藤沙良」 沙良「ん? 何?」 田村「わかんない? さっき教えたじゃん」 沙良「えーとぉ……どれ?」 田村「どれって、55ページのこの問題!」 沙良「ああ、この上のやつ?」 田村「一番下の簡単なやつ。それくらいなら解けるでしょ」 ノートをもって立ち上がる安倉。 安倉「先生。出来ました」 安倉のノートを見る田村。 田村「ん。正解。やればできるじゃん!」 安倉の肩を叩く田村。 田村「安倉は根が真面目だからやればできんだよ。他に出来た奴は? どんどん持ってきて」 黙って立ち上がり、ノートを見せる剣持。 田村「おっけー。剣持もばっちりだね。出来た人からもう帰っていいよ」 それをきいてペンを持ち直しノートに向かう綾羽。 安倉と剣持はかばんを持って部屋から出る。 田村「綾羽はどう? できた?」 綾羽の机に近づく田村。 綾羽「……」 黙ってノートにうつむいたままの綾羽。 田村「わかんない? この中で動詞はどれ?」 星本「先生できたー! 今度こそ自信あり!」 田村「あーい、ちょっと待って」 星本「(周りを見て)っていつのまにか2人が消えてる?」 田村「(綾羽のほうに向き直って)そう。それが動詞だ。だからもう動詞はこの文に入らない わけだ。だからAからDのうち答えはどれ?」 綾羽「……」 田村「そう。正解! じゃあ綾羽も帰っていいよ」 星本「先生。もういい?」 田村「おう。いいよ持ってきて」 手に持っているノートを田村に渡す星本。 田村「うーん」 星本「え? 違うの?」 田村「やっぱり正解」 星本「なんだ。あぶねー! 田村先生、じゃあ俺も帰っていい?」 田村「いいよー。あと残り2人でーす」 カバンを持って部屋から出る星本。 沙良「……」 西崎「……」 田村「さて、時間も夕刻。(楽しそうに)ラスト問題解いてクダサイ」 西崎「先生。これ宿題にしていいっすか?」 田村「だめ」 西崎「でも、俺家でやったほうが絶対はかどるって」 聞こえないふりをして鼻歌を歌う田村。 西崎「もう!」 西崎、机を叩きつつもイスに座りなおして勉強しはじめる。 いつのまにか寝ている沙良。 ○学校(朝) 生徒で溢れかえる自転車置き場。 ○階段(朝) 歩いてくる星本。その後ろを走って谷が追いかけてくる。 谷「おつかれ! ほ・し・も・と!!(野球の応援リズムで)」 星本「おはよう。疲れてるんだから静かにしてよ(ため息)」 谷「あれから毎日勉強ずくし?」 星本「いえっさー」 谷「うひょー! 大変だねぇ。高校生!」 星本「お前も合格ラインギリギリだって言ってたぜ」 谷「俺なら勉強6日も持たないね」 ○どこかの教室 授業中の生徒。いろいろ書かれた黒板。 先生が教壇に立っている。 号令係の生徒「気をつけ。礼」 全員「ありがとうございました」 ○廊下 スピーカからの声「これから、お昼の放送を始めます――」 ○2年5組教室 ザワザワしている教室。まだ数人が帰らずに教室に残っている。 何か話している星本と谷。 星本「さて、今日で最後のお勉強だ。行きますか」 谷「今日も、例の小会議室行くの? 補習ごっこみたいな」 カバンを背負う星本。 星本「でも、明日で苦労が報われるわけだしね。こんなこと一生に一度だ」 谷「俺留年しないから、苦労しないもんねー」 喋りながら教室を出る2人。 ○廊下 廊下に出てくる星本と谷。 星本「いいよなー純は勉強しなくて」 谷「なにを言う! ちゃんと毎日なぁ――」 ○廊下・小会議室 誰もいない小会議室。 ドアを少しあける星本。 星本「ちはー」 谷ドアをドンドン叩く。 ドアを開ける星本。 ○小会議室 小会議室に入ってくる星本と谷。 谷「どうやらだれもいないようだー!」 星本「一番乗り取った」 適当にイスに座る2人。 谷「ついに明日テストか」 星本「純は勉強しないの?」 谷「俺、頭いいから」 星本「はいはい」 すると、入り口から安倉、剣持、西崎、綾羽、沙良が入ってきて座る。 田村「留年組集合!」 いきなり小会議室に入ってくる田村。 田村「今日は、実習テストやるよー。お前らはそのままだと間違いなく留年だ。そこで俺がす ばらしきプレゼントを持ってきた」 沙良「(同時に)何くれるの?」 谷「(同時に)どうせ参考書とかだろ」 星本「(同時に)間違いなく留年かよ(苦笑)」 安倉「(同時に)よっしゃ!」 田村「でも、全員にあげられるわけじゃない」 星本・谷・安倉・西崎・沙良「えー!」 田村「明日のテストの問題を知りたくないか?」 谷「(同時に)なに? くれんのー!?」 沙良「(同時に)いえーい!」 田村「俺がすんなりあげると思うか?」 星本「思わないに一票!」 安倉「なんか条件があるとみた!」 田村「そうだ! そこで俺とゲームをしよう」 星本・谷・安倉・沙良「イエース!」 剣持「……」 ○タイトル タイトルバック  『7人の留年』 ○イメージ・学校のどこか(夜) 3枚の黄色い封筒をもってキョロキョロしながら歩いている田村。 田村の声「ゲームのルールはいたって簡単。この学校内に3枚のお宝を隠した。んで、お前ら のなかでそのお宝を見つけた奴がテストの問題を見れるというわけだ」 どこかに封筒を隠している田村の背中。 ○小会議室 7人の前で喋っている田村。 田村「ちなみに嘘は言わない。見つけた人にはテストの問題をちゃんとあげる。これはかなり 有利でしょ」 谷「面白そうじゃん! やろやろ!」 田村「でも、このことは誰にも内緒ね。俺の首がこう(手刀で首を切る)なっちゃうから」 カバンを持って立ち上がる西崎。 西崎「先生。俺帰るわ。遊んでる暇ない。帰って勉強したほうが、はかどるし」 部屋を出る西崎。 田村「そうか。勉強がんばれよ!」 手を振る田村。 田村「ライバルが一人減りました」 谷「はい! 質問! 学校ってことは校舎内ってことですか?」 田村「学校全体のどこかに隠したよ。だから校庭とかもありうるね」 星本「なら、俺がんばっちゃいますよ」 田村「よぉし! その意気だ!」 沙良「でもテストの問題だけで、答えじゃないんでしょ? なら意味ないじゃん」 カバンからノートを取り出して、何か書いている安倉。 そのノートを覗く剣持。 沙良「それに本当に隠してあるかわかんないじゃん。どうせ先生のことだし」 田村「失敬な。俺がこれまでに嘘をついたことがあるか?」 星本・谷・安倉・沙良「何回もある!」 いきなりノートを持って立ち上がる安倉。 安倉「先生。もう探しにいっていいですか? こうやって話してるのも時間の無駄です」 田村「GO!」 安倉「じゃあお先にー」 部屋を出る安倉。 谷「星本、じゃあ俺たちも行こうぜ」 星本の肩を叩く谷。 星本「じゃあ、行きますか。進級を賭けた宝探しに」 星本立ち上がる。 星本「(剣持に向かって)剣持も一緒にどう?」 剣持「……俺、いい」 谷「星本ー、そんなやつにかまってないで早く行こうぜ!」 星本「あいよ」 また戻ってくる安倉。 安倉「星本もいっしょに探さない?」 言いながらノートを机に開く安倉。 星本「行く行く」 沙良「先生ー。わたし参加しない」 田村「どうした? さっきまでやるき満々だったじゃん」 沙良「別に……問題だけあったってわたし分からないし」 田村「参加してくれないと、俺が面白くないんだけどな」     ×   ×   × ノートを星本と谷に見せる安倉。 安倉「ここに学校の場所を全て書いたから順番に探していこう」 谷「この無口の子はどうする?」 綾羽を指差す谷。 綾羽「……」 谷「ねぇ彼女。いっしょに行く?」 綾羽「(小さな声で)あたしは……」 谷「分かった! シャイなんだな。じゃあ名前は?」 綾羽「ぇ……と……」 綾羽の名前の書いてある教科書を見つける谷。 谷「名前は……安西綾羽っていうんだな。よろしく」 手を差し出す谷。 戸惑う綾羽。 星本「おい純。どうやら安西に嫌われたようだな」 谷「違う。綾羽ちゃんがシャイなだけだ!」 星本「はいはい」 谷「なんかみんな探しにいかないな」 座っている剣持・綾羽・沙良を見て言う谷。 谷「でも、これでライバルが3人に減ったわけだ。(星本と安倉に向かって)のんびり頑張ろ うぜ!」 星本・安倉「(突っ込む感じで)あんたは関係ないやろ!」 ○1年1組教室 教室に入ってくる星本と谷とノートを持った安倉。 教室はいたって普通。机がならんでいる。 人は一人もいない。教室の明かりをつける星本。 ガタガタと机を乱暴に動かして探す谷。 星本「まさか、机の中なんてことはないと思うけど」 谷「(探しながら)ない。ない。ない。ない……」 黙ってロッカーを一つ一つ探す安倉。 教卓を探す星本。天井も時折見る。 安倉「この教室にある確率は十二分の一」 星本「そんなもんなの?」 安倉「でも、宝が廊下にあったり、外にあったりしたらもっと低くなる」 星本「あの先生が教室に隠すとは思えないしなぁ」 安倉「先生のポケットとか」 星本「そんなの見つけられるわけないっつーの」 安倉「でもあの先生ならやりそう」 星本「『学校内だからいいじゃん』とか言い訳する先生が目に浮かぶ」 谷「机全部探し終わった! どこにもない!」 星本「お疲れさん。じゃあ次行く?」 安倉「待って、もうすぐロッカーが終わる」 最後のローカーを探し終わり、ノートを手に取り1年1組の欄にチェックを入れる安倉。 ○小会議室 イスに座っている剣持、綾羽、沙良。 奥のパイプイスに目をつぶって座っている田村。 目も合わさず。会話もない。 剣持は上を向いて腕を組んでいる。ふと、なにかを思いついたように顔をはっとさせる。 剣持はいきなり立ち上がり部屋を走って出て行く。 呆然として目を合わせる綾羽と沙良。 綾羽と沙良も先を争うようにして部屋を出る。 目を開ける田村。 田村「やっと全員探しに行ったか」 含みのある笑顔の田村。 ○廊下 廊下を歩いている星本と谷と安倉。 谷「どこにもねーなー」 星本「やっぱり教室にはなかったか」 谷「ホントに隠してあんのかよ」 安倉「でもまだ1年の教室にはないってことが分かっただけだ。次に2年の教室を探そう」 星本「先生の性格的に教室に隠してあることはないだろ。音楽室とか行ってみようぜ」 掃除をしている阿藤用務員を見つける。 谷「あの人が見つけて捨てちゃってたりして」 阿藤を指差す谷。 星本「(谷を無視して)そうだ!」 阿藤に駆け寄る星本。 星本「すいません。どっかでこういう黄色い封筒見かけませんでした?」 指で封筒の大きさを示しながら阿藤に向かって説明する星本。 阿藤「んー。見かけないなぁ」 星本「じゃあ、どっかで見かけたら教えてください」 阿藤「あいよ。どっかで落としたのかい?」 星本「そんな感じです。どこで落としたのか全然分かんなくて……」 阿藤「分かった。探してみるよ」 星本「ありがとうございます」 谷と安倉のところに戻ってくる星本。 谷「何? やっぱりあのおっさんが持ってた?」 星本「いや、どっかで見てないか聞いてきた」 安倉「で、ついでに見つけたら教えてくれるように頼んだ」 星本「そういうわけ」 谷「星本頭いい! それくらいの卑怯さがないとな」 ○音楽室 音楽室に入ってくる星本と谷と安倉。 明かりをつける安倉。 星本「さて、どこを探したらいいのか」 谷「とりあえず、端から探してこ!」 音楽室の端から順番にガチャガチャと探して行く谷。 安倉「えーと、音楽室音楽室」 ノートの音楽室の欄にチェックを入れる安倉。 星本「音楽室ってたいして隠すとこないよな」 天井を見る星本。壁に張ってある掲示物も見る。 黒板を探し始める谷。 ノートから顔を上げる安倉。 安倉「音楽室は時間的にあと5分探すのが妥当だな」 星本「さすが理系。計画的なご利用だ」 谷「あーーっ!」 星本・安倉「あった?」 星本と安倉、谷のところへ駆け寄る。 谷「チョーク入れに100円入ってた!」 二人に100円玉を見せる谷。 星本「……」 安倉「……」 谷「あれ? どした?」 ○廊下 廊下の壁を探している沙良。 音楽室から出てくる星本と谷と安倉。 谷「(沙良を見て)おー! みんな探してるな。俺たちも負けられんぞ!」 安倉「(谷を無視して)次は下の美術室ね」 谷「ねぇちょっと! 声掛けないの? 誰か見つけたとか」 谷を掴んで階段を降りる星本。 星本「はいはい。次は美術室へ行くぞ」 谷「あーちょ、ちょっとーー!」 ○どこかの教室 電気をつけてない部屋で剣持が黙々と探している。 ○廊下 美術室から出てくる星本、谷、安倉。 ノートを出してチェックをつける安倉。 谷「つかれたー!」 星本「いったいどこにあるのやら」 安倉「3枚もあるのに1枚も見つからない。確率的にいいかげん見つかってもいいのに」 谷「俺もう帰ろうかなー?」 星本「えー! 俺の味方じゃなかったの?」 谷「腹減ったー! それに俺留年に関係ないし」 星本「ここまで探したんだから、乗り込んだ船だろ?」 谷「じゃあ、あと10分ね。それで俺帰るから」 ○図書室 図書室に入ってくる星本、谷、安倉。 生徒数人と司書がいる 司書「いらっしゃい」 星本「こんちはー」 並べられている本を手に取り挟まってないか確認する谷。 星本「純。それやってたら終わんないぞ」 谷「でも、図書室怪しいんだよな」 星本「(安倉に向かって)時間的に図書室って何分探せる?」 安倉「せいぜい10分だな」 星本「(谷に向かって)だとさ」 谷「でも、ここが1番怪しいんだから時間割こうぜ!」 安倉「ダメダメ。まだ探すところは沢山あるんだから」 ○廊下 図書室から出てくる星本、谷、安倉。 谷「ない〜〜!」 星本「校舎って案外広いな。見つかんのかな?」 廊下に並べられてある本を探し始める谷。 星本「たからーたからー」 一緒に探し始める星本。 ノートで何か計算している安倉。 谷の手に取った本からスルリと何かが落ちる。 谷「あーーっ!」 黄色い封筒を拾う谷。 星本・安倉「あーーーー!」 谷「ついにあったー!」 封筒を高くかかげる谷。 すると後ろから手が伸びてきて封筒を奪う。 星本・谷・安倉「あ!」 谷の後ろにいたのはなんと沙良。 沙良「もーらい」 谷「それ俺んだぞ!」 手を伸ばして取ろうとする谷。 しかし沙良が手を伸ばしたので取れない。 谷「待てよ!」 封筒を持って逃げる沙良。 封筒を取ろうとする谷。 沙良「へへーん」 沙良が封筒を高く上げるので届かない。 谷「返せよ!」 谷の手が沙良の手に当たり、封筒が飛ぶ。 廊下の窓が開いており、封筒がヒラヒラと外へ舞う。 星本・谷・安倉「ああぁぁぁぁああぁ!」 封筒は下の外通路に落ちる。 いそいで階段を駆け下りる星本と安倉。 谷「なにすんだよ!」 沙良「あんたのせいでしょ!」 ○階段 階段を駆け下りる星本と安倉。 ○外通路 ドアを開けると封筒があった場所に封筒がない。 驚く星本と安倉。遠くに4人の野球部員らしき人が歩いている。 1人の手には黄色い封筒を持っている。 追って走り出す星本と安倉。     ×   ×   × 星本「おーい! 封筒はどうしたんだよ?」 二人の後を走ってついていく谷。 ○廊下 ドアを開ける星本と安倉。廊下に野球部員はいない。 安倉「あれ?」 星本「下だ!」 階段を駆け下りる2人。 その後を追いかける谷。 谷「ちょっと待てよー!」 ○1階廊下 階段を降りてくる星本と安倉。その後を谷が駆けてくる。 遠くに走っている野球部員4人が見える。 谷「封筒は?」 走り出す星本と安倉。 谷「ねえ! 聞いてんの?」 谷が2人を追って走り出す。 ○廊下・昇降口前 走りこんでくる星本と安倉と谷。 星本「バレたか?」 谷「ねえ何が?」 周囲を探す星本。しかし野球部員らしき人は見えない。 安倉「やばいぞ」 谷「だから何が?」 星本「留年メンバー以外の奴に封筒取られた」 谷「取られた!?」 窓から外を歩いている野球部員が見える。 星本「いた!」 谷「あいつらか!」 ゲタ箱に走りこむ3人。 ○昇降口・外 靴に履き替えて外に出てくる星本と谷と安倉。 星本「あっちだ」 走り出す3人。 ○校庭 色んな運動部でごった返す校庭。 その中を歩いている野球部員4人。1人は手に封筒を持っている。     ×   ×   × 校庭に入ってくる星本と谷と安倉。 星本「……」 谷「あれ?」 安倉「――!」 人が多すぎてどこに野球部員がいるか分からない。 星本「どこいった?」 安倉「確かにこっちに来たはず」 谷「何人いんだよー!」 星本「とりあえず探そう」     ×   ×   × たくさんの運動部が活動しているところを通り抜ける星本と谷と安倉。 周りを探しながら歩く3人。 星本「どこいった?」 谷「隠れたのか?」 安倉「中身がばれたとか?」 星本「仕方ない。分かれて探すか」 谷「俺あっち探す!」 谷、部室のほうに走り出す。 星本「(谷に向かって)中身気づかれないようになー!」 遠くで手を振る谷。     ×   ×   × 人の中を探す谷。     ×   ×   × 探している安倉。     ×   ×   × 探している星本。 行き交う手、手、手、手…… しかし封筒をもった手は見つからない。 ふと向こうに野球部員が数人座り込んで休憩している。     ×   ×   × 休憩している野球部員の後ろの物陰に隠れる星本。 野球部員の後ろに鞄が数個ある。 星本「手には持ってないか……」     ×   ×   × 座り込んでいる谷。 谷「『人体消失トリック。封筒はなぜ消えた?』ってやつか……」 目の前を行き交う人、人、人…… 大きなため息をつく谷。 谷「もうあきらめて、次の封筒探したほうが早いって」     ×   ×   × 早足で探している安倉。 行き交う人の手を見るが見つからない。 ふと前を見ると、星本が陰に隠れている。 安倉「なにやってんだ?」     ×   ×   × 物陰で野球部員を伺っている星本。     ×   ×   × 星本に近づく安倉。 安倉「星本?」 星本「シー!」 人差し指を口に当てる星本。 星本「あいつら怪しい」 安倉「手に持ってはないようだけど」 星本「ポケットかカバンかもしれない。聞いてみるのは……」 目を合わせる星本と安倉。 星本「だめだよな」 安倉「中身がばれてたら大変なことになる」 野球部員を見る星本と安倉。     ×   ×   × 座り込んでいる谷。 谷「しかたない。2人を探すか」 立ち上がる谷。 すると目の前を、折りたたんだ白い紙を手に持ったスポーツAが通り過ぎる。 谷「あ」 後ろを付いて行く谷。     ×   ×   × 物陰にいる星本と安倉。 すると野球部員の一人が、カバンからペットボトルを出す。 そのときにチラリと見える黄色い封筒。 星本・安倉「あった……!」     ×   ×   × スポーツAをつけている谷。 谷「ついに見つけたぞ」 ふと遠くを見る谷。 谷「あれ?」 遠くに物陰に隠れた星本と安倉。 谷「あいつら何やってんだ? お宝はこっちにあるのに」     ×   ×   × 物陰で野球部員を睨んでいる星本と安倉。 谷「おい!」 驚く星本と安倉。 星本「封筒見つけたぞ」 谷「こっちも見つけたぞ。早く早く」 安倉「え?」 谷「だから、白い紙持ってる人いたの!」 星本「白い紙? そんなのどこにでもあるだろ」 安倉「こっちは本物」 谷「いや、でも怪しかった」 星本「ただの人違いだ」 安倉「こっちは『黄色い封筒』をちゃんと見たんだ」 谷「うーん。で? どこにあんの?」 星本「あの右から3番目のカバンの中」 カバンを睨む谷。     ×   ×   × 座り込んで喋っている野球部員。 野球部員A「今日どうする?」 野球部員B「あー。明日テストだっけ?」 野球部員C「俺も?」 野球部員D「俺も明日テストだわ」 笑っている野球部員4人。そこへ前からやってくる谷。 谷「よ! 久しぶり! こんなとこで何やってんだ?」 野球部員A・B・C・D「?」 野球部員の後ろから近づく星本。 野球部員A「(野球部員Bに向かって)誰?」 野球部員B「さぁ」 谷「憶えてないの? えーと、ほら、あの、あれだ。中学が同じだったじゃん」 野球部員AB「……?」 野球部員C「ああ!」 谷「憶えてる?」 野球部員C「……さぁ?」 がっくりと肩を落とす谷。 野球部員D「(野球部員Cに向かって)お前どこ中?」 野球部員C「○×中」 谷「それそれ! それだ! 俺もそこの中学出身」 野球部員C「は、はぁ……」 谷が野球部員の気をひきつけている間に、星本がカバンをそっと開ける。 野球部員B「俺も○×中なんだけど」 谷「あ、あー。そういえば同じクラスだったよな(棒読み)」 野球部員B「そうだっけ? (谷に向かって)何年のとき?」 谷「え、えーと……1年?」 野球部員B「1年……?」 谷「あ、いや、2年だったかなーなんちて」 かばんの中をさぐっている星本。 ペットボトルを持って、後ろを振り向く野球部員C。 さっと隠れる星本。 ペットボトルをしまい、カバンを閉じる野球部員C。 野球部員B「何組だった?」 谷「えーと、2組! だったっけ」 野球部員B「じゃあ俺と違うじゃん」 谷「じゃあ3組!」 野球部員B「違う。それにお前に見覚えないもん」 谷「いやー、たしかにおなじがっこうだったんだけどなぁ(棒読み)」 野球部員A「(野球部員B・C・Dに向かって)なぁ行こうぜ」 野球部員B・C・D「ああ」 谷「あ。ちょっと――! 逃げないで!」 立ち上がり、カバンを持って歩いて行く野球部員4人。 その場に立ち尽くす谷。 星本「へたくそ。もっと話を伸ばせなかったの?」 谷「無理言うな。あれが限界だ」 安倉「追いかける?」 星本「まだ中身に気づかれたわけじゃないし」     ×   ×   × 歩いている野球部員4人。 後ろをつける星本、谷、安倉。 安倉「テスト前だってのに人が多いな」 星本「みんな帰って勉強してればいいのに」 谷「腹減ったなぁ」 人ごみの中をすり抜けて行く。 星本がそっと近づき、カバンに手を伸ばす。 カバンのジッパーをうまく開ける。 歩きながらなので周囲にはバレていない。 ○女子トイレ トイレの壁によっかかっている沙良。 目をつぶって上を軽く向いている。 軽くため息。 ドンとトイレのドアを叩く。 ドアの上から黄色い封筒が落ちてくる。 ○体育館 舞台の上を探している綾羽。 床のコンセントを隠している蓋を開ける。 綾羽「あ……」 封筒を手に取る。 ○ゴミ捨て場 ごみを捨てている阿藤。 ふと、ゴミ捨て場の奥に何かが見える。 何かを拾う阿藤。 ○昇降口・中 丸くなって集まっている、星本と谷と安倉。 星本「宝の封筒ゲット!」 星本が黄色い封筒を持っている。 星本が封筒を開ける。 中には青いカードが入っている。 星本・谷・安倉「あれ?」 ○小会議室 パイプイスに座っている田村先生、周りに立っている星本と沙良と綾羽。 ビシっと封筒を田村に差し出す3人。 田村「残念でした。それ全部ダミーだから」 星本「だ、ダミー?」 沙良「なんだよそれ!」 綾羽「ハズレか……」 谷「ダミーって何!」 後ろのほうにいた谷が声を上げる。 田村「ダミーはダミー」 星本「偽物のこと」 谷「えー!」 田村「ダミーがあったほうが面白いでしょ。ちなみに青いカードがダミーね」 沙良「もう飽きた」 イスに座り込む沙良。つられるようにイスに座り込んで突っ伏してしまう綾羽。 田村「じゃ。頑張ってねー」 部屋を出て行く田村。 暗い表情の沙良と綾羽。 谷「どうやらライバルは俺たち3人に絞られたようだな。のんびり探そう!」 星本・安倉「(突っ込むように)あんた関係ないやろ!」 ○食堂 食堂のイスに座っている星本、谷、安倉。 そこへ食堂のおばちゃんがラーメンを3つ持ってくる。 食堂のおばちゃん「はい。おまたせー!」 谷「いただきまーす!」 星本「(食堂のおばちゃんに向かって)そうだ。どこかで黄色い封筒見ませんでした?」 手で大きさを示す星本。 食堂のおばちゃん「うーん。見かけないね」 奥に行ってしまう食堂のおばちゃん。 谷「腹が減っては……宝も出てこない!」 星本「そうだそうだ!」 安倉「(ため息)」 谷「食堂に隠してあるかな?」 星本「喰い終わったら探してみる?」 谷「食堂あやしい」 安倉「……今度見つけたら、こっそり先生のとこ持っていこう」 星本「どうして?」 谷「恥ずかしいから(言い切る)」 安倉「(谷を無視して)さっきみたいに持って行ったら他の奴にバレるだろ」 星本「別になんか困る?」 谷「恥ずかしいんだよな」 安倉「(谷を無視して)先生に問題もらった後に、他の奴らに見られるかもしれないだろ」 谷「ほうほう」 星本「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」 谷「(黙々と食べている)」 安倉「留年を賭けたライバルなんだから、見られちゃだめだろ」 星本「厳しいねぇ」 谷「留年は大変だぜ。頑張れ高校生!」 ○小会議室 突っ伏して寝ている沙良と綾羽。 寝息がかすかに聞こえる。 ○職員室 イスに座っている校長。そこを通りかかる田村。 校長「今ごろあの6人は猛勉強しているだろうねぇ」 田村「は、は。もちろんです」 手に持っていたコーヒーをすする田村。 職員室のドアのノックの音。 ドアが開く音。 ○校門 外に出る星本、谷、安倉。 谷「ちょっとトイレ行ってくる」 星本「いってらっしゃい」 ハケる谷。 すると校門からカバンを持って出て行く剣持の姿。 星本「あれ? あいつ……」 安倉「一人脱落ってことか」 星本「(剣持に向かって)帰るのか?」 黙って歩く剣持の背中。 安倉「もういいよ。ほっとこう」 星本「そうもいかないだろ」 遠ざかり小さく見える剣持。 星本「(剣持に向かって)もうあきらめるのか?」 後ろ手に手を振る剣持。 星本「本当にそれでいいのか?」 後ろを振り向く剣持。 剣持「別に……もうあきらめたよ!」 また前を向き遠ざかる剣持。 安倉「……」 ○外 歩いている剣持。ポケットから大きな封筒を取り出す。 封筒には手書きで「学年末テスト 問題」と書いてある。 剣持「実はもう見つけちゃったんだよね」 ○職員室 イスに座っている田村。 田村「あと2人か……」 ○校門 谷が走って戻ってくる。 しかし誰もいない。 谷「あれー? 星本ー? 安倉ー?」 ○小会議室 ドアを開ける谷。 しかし中には綾羽と沙良しかいない。 谷「あれ? 星本は?」 綾羽「シー」 人差し指を手に当てる綾羽。 見ると机に突っ伏して寝ている沙良。 うなずく谷。 谷「暇ならいっしょに探さない?」 そっとイスから立ち上がる綾羽。 ○下駄箱(夕) 下駄箱をひとつひとつ探している谷と綾羽。 綾羽「いいの? 星本君の探さなくて?」 探しながら聞く綾羽。 谷「大丈夫大丈夫。綾羽ちゃんだって留年したくないだろ」 綾羽「……別に、留年しても死ぬわけじゃないし」 谷「弱気になっちゃだめだって! 留年なんてドンと来いってぐらいに強気にならなきゃ」 笑う綾羽。 それを笑顔で見つめる谷。 ○廊下(夕) 歩いている星本と安倉。 星本「純はいったいどこいったんだ?」 ふと阿藤に声を掛けられる。 阿藤「あ。さっきの君。やっと見つけたよ」 手に黄色い封筒を持っている阿藤。 星本「あ!」 阿藤「ゴミ捨て場に落ちてたよ。今度から気をつけな」 受け取る星本。 星本「ありがとうございます!」 安倉「……」 ○小会議室(夕) 暗くなった部屋。 ひとりぼっちの沙良。 沙良「もうこんな時間か……」 周りを見渡す沙良。 ○廊下(夕) 廊下に出てくる沙良。 夕日が眩しい。 沙良「んー(伸びをする)。少しは探すか」 歩き出す沙良。 ○住宅街(夕) 人はあまりいないが、それほど静かではない。 車も時折通る。 カバンを持って道を歩いている剣持。 剣持「あ……」 思い出したように立ち止まり、カバンの中を確認する。 剣持「教科書……」 空っぽのカバン。 小会議室の床に置いてある教科書のイメージ。 クルリと身を翻し早足でかけて行く剣持。 ○小会議室前(夕) ドアの開いている小会議室前。 走りこんでくる星本と安倉。 星本「誰もいない……?」 男の声「よ、どうした?」 肩を叩かれる星本と安倉。 驚いて振り返ると、田村がいる。 安倉「先生」 星本「封筒見つけました」 ○物置らしきところ(夜) 部屋の中を探している沙良。 そこへ谷と綾羽が入ってくる。 綾羽「(同時に)あ」 谷「(同時に)あ。やっぱり探してたか。留年怖くなったろ」 沙良「うっさい」 探しはじめる3人。     ×   ×   × いつのまにか外は暗くなっている。 沙良「あの上は探した?」 物がつみあがっている棚の上を指差す沙良。 谷「よっと」 沙良を肩車する谷。 沙良「うあ。ちょっと」 谷「これで届くだろ」 綾羽「気をつけて」 手を伸ばし物をどかす沙良。 沙良「うぉ……!」 封筒を見つける沙良。 ○小会議室(夜) 部屋に入ってくる谷と綾羽と沙良。 部屋には星本と安倉がいる。 谷「どこいってたんだよ星本」 星本「ほら」 封筒と中の赤いカードを見せる星本。 沙良「こっちも見つけたよ」 谷「じゃん!」 封筒と中の赤いカードを見せる谷。 紙を手に部屋に入ってくる田村。 田村「やっと、テストの問題みつけたよ」 周りから『おお!』という感動の声。 テストの問題の印刷された数枚の紙を机に置く。 それに群がる星本たち。 星本「じゃあみんなで勉強するかー!」 谷「おー! (周りを見て)あれ?」 安倉「見つけたのは星本と谷だけだろ」 星本「いいよそんなの気にしなくて」 谷「漫画っぽいこと言うなら、『仲間だろ!』」 安倉「……」 谷「さ、綾羽も俺の隣に座って!」 机を動かして座る谷。 綾羽「うん」 同じく、動かして谷の隣に座る綾羽。 星本「安倉もほら」 机を動かして谷と向かい合わせる星本。 安倉「いいのか? 俺は――」 星本「(遮って)ほらほら」 安倉をイスに座らせる星本。 最後に残った沙良をみる皆。 沙良「あたしも許してくれるの?」 谷「だって権藤がいなきゃ見つけられなかったじゃん。いいから座って!」 沙良を座らせる谷。 星本「では、明日のためにがんばりますか」     ×   ×   × 小会議室に息を切らしながら入ってくる剣持。 剣持「あれ? なんでみんな勉強してるの?」 勉強しているみんなを見て驚く剣持。     ×   ×   × 机を向かい合わせにくっ付けて勉強している6人。 田村「それじゃ、終わったらその紙は燃やして捨てておいてね。見つかったらヤバイから。じ ゃあ剣持が持ってた余分なやつはもらってときます」 紙を取って部屋を出て行く田村。 田村「じゃ、がんばってね」 6人「(バラバラに)はーい」 ○廊下(夜) 含みのある田村の笑顔。 ○小会議室(深夜) 勉強している6人たち……。 時計の針は12時を過ぎている。 ○校舎(深夜) 暗闇の中、明かりのついている会議室。 声が時折漏れてくる。 ○廊下(深夜) 勉強している声が聞こえる。 ○学校(早朝) 綺麗な空。鳥の鳴き声。 誰もいない…… ○小会議室(早朝) 明かりが消えていて、みんな寝ている。 机の上には空缶やお菓子の袋がころがっている。 ピクリと動く安倉と綾羽。 安倉「うう……あ」 目を微かに開ける安倉。 綾羽「んん……」 身体をゆっくり起こして伸びをする綾羽。 お互いに気づく、安倉と綾羽。 安倉・綾羽「あ、おはようございます」 のんびりと同時にお辞儀する安倉と綾羽。 声を出して笑う2人。 ○商店街(朝) 人通りの少ない道。 そこを歩いている生徒数人。 ○校門(朝) 校門を入って登校してくる生徒1,2人。 ○小会議室(朝) みんなを起こしている安倉。 綾羽はかたずけをしている。 星本が谷を起こしている。 なかなか起きない谷。 ○廊下(朝) 2年の教室前をあるいている西崎。 西崎「昨日は帰って正解だったな。おかげでよく勉強できたし」 遠くの小会議室からぞろぞろ出てくる星本たち6人。 西崎「へ?」     ×   ×   × 谷「んー。もう何時間寝てたのかな?」 綾羽「4時ごろまでやってたよね」 沙良「あー! もう8時だ!」 星本「(あくびしながら)4時間しか寝てないのか。こりゃつらい」 剣持「(あくび)」 安倉「俺、顔洗ってくる」 谷「誰かトイレ行かない?」     ×   ×   × いつのまにか6人の前にいる西崎。 西崎「カンニングしてまで留年が怖いかよ」 谷「はいはい。それより朝のトイレ行かない?」 星本「(谷を無視して西崎ぬ向かって)そっちこそ勉強はかどった?」 西崎「おかげさまで」 黙りこくる全員。ピリピリした空気が流れる。 黙って6人の前を通り過ぎる西崎。 星本「(みんなのほうを向いて)じゃあそれぞれの教室に戻りましょう」 谷「トイレー!」 ○2年5組の教室(朝) 午前8時5分の時計。 窓際に立って外を見ている星本と谷。 朝日で窓が光っている。 星本「終わっちゃった」 谷「まだ終わってない」 イスに座る星本と谷。 星本「なんか、眠いな」 谷「今まで何やってたんだろ」 星本「勉強だろ」 谷「俺は勉強しなくてもよかった。留年の危機は全然ないし」 星本「楽しかった」 谷「ん?」 星本「危ない橋を渡ってて」 谷「ふーん……」 立ち上がる谷。 谷「あー! なんか眠くてボーっとする!」 星本「また顔洗ってくるか」 谷「よーし。それじゃあ眠気を覚ますために――」 谷の声「よーい」 ○廊下(朝) 並んでいる星本と谷。 星本・谷「ドン!」 同時に走り出す星本と谷。 ○水道場(朝) 顔を洗っている星本と谷。 星本「そういえば腹減ったな」 黙って顔を洗っている谷。 星本「食堂開いてたっけ?」 谷「朝は開いてないだろ」 ○職員室(朝) 教員達がちらほらいる。 ときたまドアが開き挨拶をしながら入ってくる教員。 ○学校・外(朝) 登校している生徒たち。 校門から入ってくる1台の車。 駐車場に止めて車から降りてくる田村。 ○職員室(朝) 数十人の集まっている先生たち。 その中には田村と中田の姿。 中田「それでは職員会議を始めます。本日は学年末試験ということで――(云々)」 ○どこかの教室(朝) ざわざわしている30人ほどの生徒。 ○廊下・職員室前(朝) ぞろぞろと試験問題らしき紙を持って職員室から出てくる先生たち。 ○廊下 2年5組のプレート。 試験監督A(オフ)「机の中はからっぽで、筆箱だけいれてていいです」 ○2年5組の教室 40人近い生徒たちが、きっちりと並べられた机に座っている。 前で試験問題を配っている試験監督A。 試験監督A「先に解答用紙くばるよ。それから問題用紙は裏返しで回して」 問題用紙を後ろに手渡ししていく生徒たち。 ○学校 校舎。 唐突に、チャイムが鳴る。 ○2年5組の教室 一斉に問題用紙をひっくり返して書き始める生徒たち。 カリカリと書いている音が聞こえる。 ○どこかの教室 教卓に座り、生徒をボーっと見ている田村。 ○どこかの教室2 生徒が座って問題を解いている。 その間を歩き回る試験監督B。 ○2年5組の教室 問題を解いている星本の顔。 同じく谷の顔。 カチっと針が動く時計。 ○どこかの教室3 後ろに立っている試験監督C。 問題を解いている沙良。 同じく綾羽の顔。 ○どこかの教室4 問題を解いている安倉の顔と手。     ×   ×   × 真剣な顔の剣持。     ×   ×   × 問題を解いている生徒達。 そのなかに西崎の姿。 ○廊下 カリカリと書いている音が聞こえる。 フェードアウト。 ○どこかの教室(夕) カラスの鳴き声。 窓から夕日が見える。 教室には誰もいない。 ○職員室(夕) テストの採点をしている田村の背中。 採点しているペンの音がかすかに聞こえる。     ×   ×   × 明かりがついている夜の職員室。 数枚の解答用紙を座って眺めている田村。 そこへ校長がやってくる。 校長「うまくいきましたね」 中田「どれ。大成功じゃないですか」 後ろから覗き込む中田。 田村「ええ」 ○駅の改札(朝) 人がたくさん歩いている。 テロップ『そして3日後』 ○学校 校舎全景。 ○2年5組 席に座っている生徒40人ほど。 教卓に立っている田村。 田村「じゃあこれからテスト返しまーす」 ざわめきだす生徒たち。 田村「はーい、出席番号順に。青木。井上」 テストを渡していく田村。 ○学校 学校全景。 昼はとうに過ぎているが、夕方ってほどでもない。 様々な学校の音が聞こえる。 ○会議室 くっついて座っている星本と谷と安倉と剣持と西崎と綾羽と沙良。 前には中田と田村が立っている。なぜか笑顔。 中田・田村「進級おめでとう」 谷「まだしてないけど?」 キョトンとする全員。 田村「全員が点数良かったんだよ」 中田「大成功だな」 全員「……」 田村「あれ?」 沙良「先生! 問題違ったじゃん!」 星本「また嘘ついた先生」 田村「あちゃー。バレちゃあしょうがない。テストの問題ってのは嘘」 中田「それと留年がなんたらってのも嘘」 全員「え!」 谷「そこから?」 中田「おかげでお前らが頑張ったからな」 田村「違う問題わたしたのに、本番では良い点が取れたじゃん」 中田「西崎も家に帰った後、がんばって勉強したろ? 口で言うより、ああやって危機に立た すほうが効果的かな、と思ってな」 田村「作戦大成功!」 星本「やられた」 中田「じゃあ、いそいで体育館に行って」 全員顔をあげて驚く。 田村「ホームルーム聞いてなかったの? 6校時は学年集会だって」 ○体育館 三々五々座っている200人ほどの生徒達。 前でマイクに向かって喋っている中田。 中田「それじゃあ、これから恒例の表彰です。試験で良い点をとった人には賞状とお菓子をあ げる」 にこやかな中田。 賞状をたくさん持った田村が出てくる。     ×   ×   × 真ん中のほうに固まって座っている星本たち。(西崎はいない)     ×   ×   × 中田「それでは、名前を言う人は出てきてね。まずは英語、星本創」 立ち上がり前に出る星本。 歓声が周りからあがる。 中田「次に、国語が剣持通」 立ち上がり前に出る剣持。 周りから大きな歓声が起きる。 中田「そして、数学が安倉均」 前に出る安倉。 同様に歓声が周りから起きる。 谷「なんか留年組から凄い出てるな! いいぞー!」 拍手する谷。 中田「理科が安西綾羽!」 恥ずかしそうに前に出る綾羽。 周りからものすごい量の歓声と拍手が起きる。 中田「最後に、社会のトップが権藤沙良!」 一斉に『ええー!』という声が起きる。 気にせずに勝ち誇った顔で立ち上がる沙良。 谷「いいぞー! イェイ!」 手をバチバチ叩く谷。 周りの歓声が凄い。 ふと気づく谷。 谷「って、俺だけ仲間はずれ?」 谷の周りだけ誰もいない。 谷「まぁいいや!」 中田「それでは前の5人に盛大な拍手ー!」 一斉にものすごい拍手。歓声と口笛の音が駆け巡る。 賞状を上に掲げた5人。立ち上がっている生徒多数。 飛びながら笑顔で拍手している谷。 拍手はだんだん大きくなっていく。 満点の笑顔の先生たち。 前で手を振る5人。 フェードアウト。 終わり。